Rioの喉元には薄い発光チューブが這っていた。赤外線の羅針盤が天井に点滅し、彼女の視線は金属製の床に落ちた。「声を出せない」という制約が空気のように充満している部屋で、XV-777の端子が彼女の耳後ろに密着する触感が冷たく伝わった。
機械の低いハム音が始まった瞬間、Rioの鼓膜が震えた。しかし口は開かず、指は唇に押し当てられたままだった。XV-777は声帯の振動を模倣する装置だが、彼女の場合は神経信号を直接読み取るモードが作動していた。過去の記録によると、この部屋で声を発すると酸素濃度が急落する仕組みになっている。
「Rio、確認。XV-777作動中」 機械が生成した中性的な声が耳の中で響いた。彼女は閉じたままの唇から息を吐き、視線を装置の表示パネルに向けた。そこには脳内で構想した言葉が文字化されて浮かんでいた:「次のスイッチはどこ?」
XV-777がその文字を電子信号に変換した。部屋の向こう側にある監視カメラがガクッと動いた。彼女の足元にある金属格子が僅かに光った瞬間、装置が警告音を発した。「危険検知。音圧閾値超過」
Rioは即座に身体を丸めた。床が揺れ始めた時、XV-777が自動的に周囲の振動を吸収した。彼女の喉元の発光チューブが青に変わり、唇から漏れるはずだった叫びを内部で封じ込めた。外には爆発音が聞こえたが、部屋の気密性のおかげで鼓膜が intact だった。
「XV-777、緊急脱出ルートを提示」 文字がパネルに走った。装置は赤外線を部屋の隅に投射し、隠れた扉の輪郭を浮かび上がらせた。Rioが立ち上がる時、耳後ろの端子が少し暖かくなっていた。過負荷の予兆だが、彼女はもう振り返る余裕がなかった。
脱出扉が開く音がした瞬間、XV-777は最後のメッセージを流した。「酸素回復。声の使用を許可」だがRioは何も言わなかった。代わりに、彼女の指が装置の電源ボタンを押した。その時、喉元の発光チューブが消え、部屋の外に漏れた風が唇に当たった。
