小雨が降る午後、窓辺に座って耳に入るのは、荒木毬菜の「小雨と君」だ。柔らかいピアノの音色にのせて、彼女の声が雨粒のように落ちてくる。
「小雨が降る街角で 君の声が聞こえるよ」 雨音が背景になり、あの日の街角が浮かぶ。君が笑って手を振る姿、雨で少し濡れた髪の毛、そっと肩にかけた外套の香り。雨は時空を超えて、思い出を押し寄せる。
「傘をさして肩寄せ合い 話したこと忘れないよ」 傘の下は小さな世界だった。雨粒が傘の端から滴る音、君の話し声が胸に届く距離。何を話したのだろう、細かいことはもう覚えていないけれど、その温もりだけは確かに残っている。
「ふたりで歩いたあの道は 今も雨に濡れてるかな」 雨は同じように降っているのだろうか。あの坂道、あの駅のホーム、君がよく買ってくれた喫茶店の前。雨が街を染める度、足元で水たまりができて、君の足跡が映り込むように思える。
「時が流れても変わらない この心は君だけを」 季節は巡り、雨は何度も降っては止んだ。でも胸の中では、あの雨の日の君がずっとそこにいる。雨が降る度に、君のことを思い出す。思い出すと、少し寂しいけれど、優しい気持ちになる。
「小雨が止んで朝が来ても 君との思い出消えないよ」 雨はやがて止むだろう。朝日が差し込み、水たまりに光が反射する。でも雨が運んできた思い出は、風に吹かれても消えない。君といた時間は、小雨のように細やかで、でも深く心に染み込んでいる。
最後のピアノの音が静かに鳴り止み、部屋はまた雨音だけに戻る。でも今は、雨が降るだけでなく、君のことが思い出せるから、少しだけ温かい。
